里文化協会長賞 「烏賊舟や平家の裔といふ漁師」

里文化協会長賞

「烏賊舟や平家の裔といふ漁師」

上 レイ子 / 鹿児島市

審査員 園田 千秋 先生

人はルーツを知りたがるようです。ルーツを知ることで、自分という存在が意味あるものとして感じられるのでしょう。この句の烏賊舟は、港に停泊しているのだろう。出漁の準備でもしているのだろうか。漁師と話す機会を得た作は、漁師さんから自分は平家の末裔だと聞かされたのです。形のととのった光景の見える句が生まれました。数百年前、源氏との戦に敗れた平家に属する人々は、源氏の厳しい追及の目を逃れ、僻地に住み暮したのです。熊本の五木も落人の地として有名ですが、生活の厳しさを感じさせる場所なのは確かです。生活は厳しく、恵まれない暮らしを支えたのは、平家の一門であるというプライドだったのでしょう。人間の尊厳といえるかもしれません。人が決して失ってはならないものの一つだと思うのです。